


須藤祐太郎 記録集 「七遺」 (第2刷)
¥3,000 税込
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「七遺」
著者 須藤祐太郎
文庫判、246ページ、フルカラー
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心身の問題により彫刻を離れ、レディメイドに移行してから5、6年ほどが経ちました。当初は、素材を近所のホームセンターで買えるものに限定し、小さな構成を一日にひとつ、リハビリとして作っていました。シュルレアリスム期のジャコメッティのオブジェたちや、シュヴィッタースのメルツ、パピエ・コレなど、古くさくて生真面目なものを念頭に置いた作業でした。彫刻の基本的な問題(素材との関係性、台座の捉え方、空間へのアプローチなど…)から出発する、という呪縛からはなかなか抜け出せませんでしたが、せめてメディアは彫刻(彫り、刻むもの)以外のものでなければ、と手を動かしました。その期間は共依存のように続きましたが、最近になってようやく、いくらか自由な(より個人的な)作業ができるようになった気がします。
ジャコメッティの幼少期のエピソードに、近所の大きな岩の洞穴に神秘を感じていた、という話があります。ぼくは子供の頃、ハム太郎のゲームに登場する洞穴を神聖視していました。子供の夢想という点では、そこに大きな差があるとは思いませんが、ジャコメッティ少年が岩に夢中だった当時と比べて、ぼくたちの身の回りにある多くのものが、人工物に置き換わったことは間違いありません。デュシャンが便器を泉に変えてから、100年以上が経ちました。粘土を使った作業よりも、既製品による作業の方が、ぼくの手にはしっくりと馴染みます。しかし、アートやそれを取り巻く環境がアップデートされたとしても、我々はそう簡単にアップデートできるものではない。重視すべきは、エピソードにおける“洞穴”の在り方ではなく、そこにどんな個人的な想いがあるか、です。やはり、ジャコメッティにとっての岩と、ぼくにとってのハム太郎のゲームに、大きな差はないと考えます。
作品たちは、流れた日々のレプリカです。コピーと言うよりも、レプリカと表現したい。それらは時間差で生まれるなと、いつも思います。何年もの月日が経ち、何か形にすることで、ようやく区切りをつけようと試みることができる。オブジェ、写真、文章たちは、追憶による価値が付与された、きらきらと光るガラクタであって欲しい。てきとうに拾った貝殻は、どんなに美しくてもただの貝殻ですが、思い出のゲームセンターでとったプラスチック製の貝殻は、たとえ大量生産された模造品だとしても、替えのきかない宝物になります。これは、制作で大切にしている部分であると同時に、大きな力(我々を呑み込もうとする、ハリケーンのような渦)への抗いでもあります。
今回の記録集は、今後もレディメイドやマルティプルを扱う上で、ひとつの区切りになったと思います。手のひらサイズのオブジェをひとつ作るために、ぼくはあっちこっちに遠征するのですが、そのアクと言うか、制作過程の余剰みたいなものも含めて、一冊に収めました。内面の話をすると攻撃されやすい世の中ですが、何かを作り続け、傷付いた他者と前向きな関係性を築くためには、個人的な(出来れば真摯な)告白を続ける勇気が必要だと考えます。長くなってしまいましたが、ここまで読んでくれて、どうもありがとうございました。
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